公開日:2026年10月16日|最終更新日:2026年10月16日|情報確認日:2026年10月16日
本記事でいう「保険」は、日本の公的医療保険を指します
使えるものもありますが、治療の種類によります。自家培養軟骨「ジャック(JACC)」は、2026年1月1日から、条件を満たす変形性膝関節症にも公的医療保険が適用されるようになりました。ただし、膝の再生医療すべてが保険でカバーされるわけではありません。幹細胞の関節内注射やPRPなどは、現在も自由診療として提供されるのが一般的です。
「膝の再生医療が保険適用に」というニュースを見て、こう思われた方も多いはずです。注射を1本打てば軟骨は元通りになるのか? これまで数百万円だった治療が、少しの負担で受けられるようになるのか? 何年も痛みを抱えている自分の膝でも受けられるのか?
これらは「再生医療」という言葉だけでは答えられません。まず治療の正式な名前をはっきりさせること。そこから、その治療が何をするのか、自分に向いているのか、保険はどこまでを負担するのかが見えてきます。
変形性膝関節症とは?資料によって呼び方が違うのはなぜですか?
膝の関節軟骨がすり減り、関節まわりの組織にも変化が起こる状態を、変形性膝関節症といいます。英語ではknee osteoarthritis、資料によっては「膝OA」と略され、中国語圏の資料では「膝骨関節炎」と表記されます。呼び方は違っても、指している状態は同じです。立ち上がりや歩き始めの痛み、階段の上り下りのつらさ、膝に水がたまる、曲げ伸ばしがしにくい、といった症状がよく見られます。
膝の中では、関節軟骨と半月板は別の組織です。半月板は荷重を分散する役割をもち、その損傷が関節の変化を進めることもあります。ただし、膝の痛みをすべて「軟骨がなくなって骨と骨が当たっている」と単純に考えることはできません。治療を選ぶ前に、痛み・軟骨の損傷・半月板・下肢全体への力のかかり方が、どう関係しているのかを診断で整理しておく必要があります。
自家培養軟骨・幹細胞・PRPは何が違うのですか?
最も覚えやすい違いは、材料です。培養軟骨移植は自分の軟骨細胞を、幹細胞治療は特定の組織に由来する細胞を、PRPは自分の血液成分を使います。同じ治療の「グレード違い」ではありません。
| 項目 | 自家培養軟骨移植(ジャック/JACC) | 幹細胞の関節内注射 | PRP注射 |
|---|---|---|---|
| 使用する材料 | 自分の軟骨細胞を培養してつくった組織 | 自分の脂肪や滑膜など、由来組織は方法によって異なる | 自分の血液から調製した多血小板血漿 |
| 治療の流れ | 軟骨を採取し、体外で培養したうえで手術で移植する | 組織を採取し、細胞を処理または培養して関節内に注入する(方法により異なる) | 採血し、調製したものを治療部位に注入する |
| 主な狙い | 条件を満たす軟骨欠損の修復と症状の改善 | 痛み・機能・組織環境への働きかけが研究されている段階 | 血小板に含まれる成分を利用し、痛みや機能の改善をめざす |
| 公的医療保険 | 適応と実施要件を満たす場合に適用される | 通常は自由診療 | 変形性膝関節症に対する外来治療では通常は自由診療 |
| 理解のポイント | 手術とリハビリの計画が必要になること | 細胞の種類や調製法が違えば、同じ効果として扱うことはできない | PRPは幹細胞でも、軟骨の移植物でもない |
出典:J-TEC 患者向け資料/獨協医科大学埼玉医療センター 変形性膝関節症の治療 ※この表は種類を見分けるためのものです。実際の手順や目標は、担当医の説明を優先してください。
膝の再生医療のうち、保険が使えるのはどれですか?
今回の変化は、自家培養軟骨ジャックの保険適用が変形性膝関節症にも広がったということです。幹細胞注射が全面的に保険適用になったわけではありません。適応には、運動療法などの保存療法で臨床症状が改善しないこと、そして治療する軟骨欠損の面積が2平方センチメートル以上であることなどの条件が含まれます。
出典:J-TEC「ジャック」変形性膝関節症の適応と保険の条件
つまり「変形性膝関節症と診断された」は、検討のスタート地点にすぎません。医師は損傷の場所、関節全体の状態、そしてその治療が今のお困りごとを解決できるかどうかまで判断します。実施する医療機関と医師にも、定められた要件があります。
対象となったのは変形性膝関節症です。ここから「すべての関節疾患に使える」と広げて考えることはできませんし、半月板損傷に対する細胞治療が同じように保険適用になった、という意味でもありません。半月板の細胞による修復には、別の研究・開発の流れがあります。
培養軟骨移植は手術が必要ですか?日帰りでできますか?
手術が必要で、外来で行う注射1回と同じようには考えられません。自分の軟骨組織の採取、体外での培養、そして移植という流れで進み、その後にリハビリが続きます。医療機関が公開している説明でも、術後は段階的に患側下肢への荷重を制限したり、松葉杖を使ったりする場合があると説明されています。
患者さんの側では、費用のほかに次のことを先に確認しておくと安心です。
- ✓入院は何回必要か
- ✓いつごろから普通に歩けて、運転や仕事に戻れるのか
- ✓骨切り術などを同時に行う必要はあるか
- ✓自宅の階段の上り下りは大丈夫か
※ これらは手術の内容によって変わるので、他の方の回復期間をそのまま当てはめることはできません。
費用はいくらかかりますか?保険が使えると自己負担はどのくらいですか?
総医療費、製品の価格、実際の自己負担額は、それぞれ別の数字です。「治療に数百万円」という表現を見たときは、まずそれが何を含んだ金額なのかを確かめてから、保険の話に進んでください。
「総額450万円」といった数字も、どの病院の、どこまでを含む治療なのかが示されて初めて比較できます。1つの総額を、日本の膝の再生医療すべての相場として扱うことはできません。
自由診療の費用も、内容によって金額が変わります。たとえば獨協医科大学埼玉医療センターが公開している金額では、PRPが99,660円、自家滑膜幹細胞治療が2,488,000円(いずれも税込・保険適用外と明記)とされています。これはその施設の一例であり、全国の相場ではありません。
見積もりを比べるときは、片膝か両膝か、何回の治療か、そして検査・組織の採取・培養・注射・再診・リハビリが含まれているかを、書面で示してもらうことをおすすめします。
高額療養費制度を使えば、自由診療も安くなりますか?
なりません。高額療養費制度は、保険診療の自己負担を軽減するための制度です。自由診療が高額だからといって、それが保険の対象になるわけではありません。食費の一部や差額ベッド代など、保険の対象外の費用も、そのまま合算の対象となるわけではありません。
すでに保険が使える治療については、自己負担額が年齢・所得・適用の時期・治療が月をまたぐかどうかによって変わります。制度は改定されているため、試算するときは受診時点の最新のルールを使い、加入している保険者や病院の会計窓口に確認してください。ネット上の「最終的には数万円」という数字を、そのまま自分の見積もりとして受け取らないでください。
幹細胞治療を受ければ、軟骨は本当に元に戻りますか?
現時点では保証できません。痛みが改善することと、軟骨の再生が証明されたことは、別の話です。
2023年に韓国で行われた第III相多施設ランダム化比較試験では、Kellgren-Lawrence分類グレード3の変形性膝関節症の患者261名を対象に、自家培養脂肪由来間葉系幹細胞の関節内注射とプラセボが比較されました。6カ月の時点で、細胞治療群のほうが痛みと機能の改善は良好でしたが、MRIで見た軟骨欠損の変化には、群間で有意な差は認められませんでした。
出典:Kim KI, et al. Am J Sports Med. 2023;51(9):2243-2253
また、440名を解析対象とした別の多施設ランダム化比較試験では、骨髄由来・脂肪由来・臍帯由来という複数の細胞製剤とステロイド注射が比較され、1年の時点で細胞治療が有意に優れるという結果は示されませんでした。用いられた方法は同じではないため、1つの良好な結果からすべての幹細胞治療が有効だと言うこともできず、1つの否定的な結果からすべての方法の結論とすることもできません。
出典:Mautner K, et al. Nat Med. 2023;29(12):3120-3126/同研究グループによる追跡報告(Am J Sports Med, 2025)
効果の説明を聞くときは、一点確認してみてください。ここでいう「効いた」は、痛みのスコアが下がったということか、歩きやすくなったということか、それとも画像で軟骨の構造の変化が確認されたということか。これがわかると、その治療から実際に得られるものが見えてきます。
PRPの方が安いので、まずPRPからでいいですか?
価格だけで適応を判断できるわけではありません。PRPと培養軟骨移植では材料も治療の方法も違うため、PRPを培養軟骨移植の安い版として考えることはできません。
また、PRPは「自分の血液だからリスクがない」というものでもありません。日本医科大学の治療説明でも、注射後の短期間に痛みが強まることがあり、経過観察が必要であると説明されています。血液から調製する製品にもいくつか種類があり、「PRPに関連する治療」という総称だけで、成分・エビデンス・治療計画が同じだと考えることはできません。
これまでの治療で思うような効果が出ていない場合、話し合う価値があるのは次の点です。いま生活に最も影響している症状は何か。今の治療は十分に行われているか。次の選択肢で何を改善したいのか。効果がなかったときにどう切り替えるのか。価格だけで決めない、ということです。
再生医療を検討するとき、初診で何を聞けばいいですか?
変形性膝関節症の一般的な選択肢には、運動療法・リハビリ、体重の管理、薬物療法、関節内注射の一部、そして手術があります。医師は症状と検査結果をもとに方針を選びます。再生医療が登場したからといって、これらの治療の重要性がなくなるわけではありません。
出典:日本整形外科学会
受診の際は、次の6つを持っていくとよいでしょう。
再生医療等提供計画に基づいて行われる治療については、公開されている治療の名称や説明・同意の書類を確認することもできます。計画の提出、製品の承認、保険の適用、有効性のエビデンスは、それぞれ別の情報です。1つずつ確認してください。
よくあるご質問
当院での対応について
銀座YRクリニックは完全予約制の自由診療クリニックです。当院がご提供しているのは、公的医療保険の適用外となる再生医療(幹細胞治療、PRP、点滴療法など)です。
本記事で取り上げた自家培養軟骨「ジャック」の移植は、保険診療として、要件を満たす医療機関と医師のもとで行われる手術です。当院では実施しておりません。保険診療でのジャック移植をご検討の方は、実施施設として認定された医療機関にご相談ください。
「膝の再生医療が保険適用になった」というニュースは、当院の自由診療の費用が保険で軽減されるという意味ではありません。ご自身の症状にどの選択肢が合うかは、診察のうえでご説明いたします。
ご自身の膝の治療を選ぶときは、何をする治療なのか、なぜ自分に向いているのか、保険はどこまで負担するのか。この3つをはっきりさせてください。ここが決まって初めて、効果・費用・回復の見通しを比べられるようになります。
※ 本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断に代わるものではありません。治療の適応、価格、保険のルールは、受診時の正式な説明を優先してください。当院で提供する再生医療は自由診療であり、再生医療等安全性確保法に基づく医療行為です。効果には個人差があります。
参考文献・出典
- 株式会社ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC)「自家培養軟骨ジャック」ニュースリリース・製品情報
- 日本整形外科学会「変形性膝関節症」
- 東京科学大学 膝関節疾患の解説/半月板再生医療に関する研究
- 獨協医科大学埼玉医療センター 整形外科 変形性膝関節症の治療と費用
- 名戸ヶ谷病院 自家培養軟骨移植術
- 日本医科大学付属病院 整形外科 治療の説明
- 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」/高額療養費制度/先進医療の概要について/再生医療等提供計画に関する情報
- Kim KI, et al. Clinical Efficacy and Safety of the Intra-articular Injection of Autologous Adipose-Derived Mesenchymal Stem Cells for Knee Osteoarthritis: A Phase III, Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial. Am J Sports Med. 2023;51(9):2243-2253.
- Mautner K, et al. Cell-based versus corticosteroid injections for knee pain in osteoarthritis: a randomized phase 3 trial. Nat Med. 2023;29(12):3120-3126.


