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変形性膝関節症の幹細胞治療、効果はMRIで分かる?樋口淳也院長の臨床研究を解説

治療前のMRIから、幹細胞治療後の変化を予測できるのか。論文の筆頭著者が解説します

Regenerative Therapy 2020年掲載論文の誌面 樋口淳也 筆頭著者 変形性膝関節症に対する自家脂肪由来幹細胞の関節内投与
本記事で解説する論文(Regenerative Therapy 2020年 第14巻 332-340ページ/日本再生医療学会 英文誌)。当院院長 樋口淳也が筆頭著者を務めています。
© 2020 The Japanese Society for Regenerative Medicine. Published by Elsevier B.V. CC BY-NC-ND 4.0 にもとづき掲載。

この研究でわかったこと

現時点では、治療前のMRIだけで幹細胞治療後の変化を正確に予測することはできません。

ただし本研究では、治療前の軟骨損傷・骨棘・骨髄病変といったMRI所見が、治療後の一部の臨床スコアと関連していました。その関連の向きは、研究チームが当初立てていた仮説とは逆でした。

※ 本研究は対照群を設定していない後ろ向き観察研究です。効果や安全性を保証するものではありません。

変形性膝関節症の再生医療を検討するとき、多くの方がまず気になるのは「本当に効くのか」という点だと思います。

ただ、同じ治療を受けても、その後の経過には個人差があります。では治療を受ける前に、あらかじめわかることはあるのでしょうか。

2020年にRegenerative Therapy(日本再生医療学会の英文誌)へ発表されたこの研究は、まさにその問いを扱ったものです。

この記事の要点

対象は34名・57膝、Kellgren-Lawrence分類グレード3〜4(進行期から末期)
VAS、KOOS-疼痛、KOOS-症状の3項目は、注射から1か月の時点で6か月間の平均変化量の約70〜80%に達していた
日常生活動作やスポーツに関する項目は、変化がより緩やかだった
治療前のMRI所見は一部の臨床スコアと関連していたが、その向きは研究チームの仮説とは逆だった
注射細胞数・培養期間・年齢は、いずれも効果との有意な関連が認められなかった
治療後にもMRIを受けた4名では、症状の変化と画像上の構造変化が一致しなかった
論文の考察では、臨床的な変化は主に抗炎症作用によるものであり、組織修復によるとは限らないとされている

研究の概要

論文名 Associations of clinical outcomes and MRI findings in intra-articular administration of autologous adipose-derived stem cells for knee osteoarthritis
掲載誌 Regenerative Therapy(2020年)/日本再生医療学会 英文誌
研究デザイン 後ろ向き観察研究(対照群なし)
実施機関 日本国内の医療機関(銀座YRクリニックではありません)
対象 臨床スコア:34名・57膝/治療前MRIあり:19名・34膝
選択基準 Kellgren-Lawrence分類グレード3〜4で、他の保存療法では改善しなかった方
平均年齢 67.5歳(男性10名/女性24名)
治療内容 自家培養脂肪由来幹細胞の関節内注射
注射細胞数 平均 約8,260万個
評価時点 注射前、注射後1か月・3か月・6か月
当院院長の関与 筆頭著者
DOI 10.1016/j.reth.2020.04.003

※ 後ろ向き観察研究:すでに治療を受けた方の診療記録を、あとから振り返って解析する研究方法です。治療を受けていない対照群が設定されていないため、自然経過やプラセボ効果の影響を除くことができません。また、同じ期間にこの機関で治療を受けた319名・486関節のうち、本研究が解析したのは書面同意の得られた34名・57膝であり、全症例を対象とした解析ではないため、選択の偏りが含まれる可能性があります。

※ Kellgren-Lawrence分類:X線画像をもとに変形性関節症の進行度を評価する国際的な分類で、0〜4のグレードに分けられます。本研究の対象はグレード3〜4、つまり進行期から末期にあたり、グレード0〜2の初期・軽度の方は含まれていません。

わかったこと①|痛みの変化は、主に最初の1か月に現れた

本研究では、治療後の変化を2つの指標で追跡しています。

※ VAS:痛みの強さを患者さんご自身が0〜10で採点する指標です。数値が小さいほど痛みが軽いことを示します。

※ KOOS:膝の状態を「疼痛」「症状」「日常生活動作」「スポーツ・レクリエーション」「生活の質」の5つの領域で採点する国際的な評価方法です。数値が大きいほど良好な状態を示します。

6か月間で報告された数値は次のとおりです。

指標 注射前 6か月後
VAS(痛み) 平均 6.1 平均 3.5
KOOS(総合スコア) 平均 54.4 平均 64.6

改善の程度に加え、改善が現れる時期も注目したいポイントです。研究の平均結果では、痛みや症状の改善の多くが、注射後1か月以内に見られました。VAS、KOOSの「痛み」「症状」の3項目では、1か月時点の平均改善量が、6か月間に見られた平均改善量の約70~80%を占めていました。一方、日常生活動作やスポーツ・レクリエーションに関するスコアは、時間をかけて徐々に改善する傾向が見られました。全体として、痛みや症状は比較的早い時期に改善し、日常生活動作や運動機能は段階的に改善していく傾向が示されました。

そして数値そのもの以上に注目したいのが、変化が現れた時期です。

VAS、KOOS-疼痛、KOOS-症状の3項目は、注射から1か月の時点で、6か月間の平均変化量の約70〜80%に達していました。

これは「70〜80%の方が改善した」という意味でも、「痛みが70〜80%軽くなった」という意味でもありません。「6か月の間に起きた平均的な変化の大部分が、最初の1か月に現れていた」ということです。

一方、KOOS-日常生活動作とKOOS-スポーツ・レクリエーションの2項目は、ゆるやかに変化していきました。

痛みが先に変わり、動作はあとから変わる。

痛みが軽くなっても、階段の上り下りや長時間の歩行、スポーツが同じタイミングで楽になるとは限りません。

わかったこと②|MRI所見と効果に関連はあったが、向きは仮説と逆だった

ここが本研究の中心であり、もっとも慎重に読む必要がある部分です。

Hypothesis
研究チームが立てていた仮説
「病変が軽い方のほうが、改善幅は大きいはずだ」

Result
結果は逆だった
病変がより進んでいた群のほうが、一部のスコアで改善に達した割合が高かった

研究では、治療前にMRIを受けた19名・34膝について、MOAKSという評価法で画像所見を採点しました。

分け方は「改善が大きい/小さい」ではなく、各スコアのMCIDを基準としています。

※ MCID(臨床的に意味のある最小変化量):患者さんご自身が実感できる、意味のある最小限の変化幅を指します。本研究では各スコアがMCIDに達したかどうかを基準に、改善群と改善不十分群に分けています。VASのMCIDは2.0に設定されました。

結果は次のとおりです。

VASがMCIDに達した群は、軟骨損傷の広がりと骨棘のスコアが高かった
KOOS-日常生活動作がMCIDに達した群は、骨髄病変の広がりと骨棘のスコアが高かった
KOOS-スポーツ・レクリエーションがMCIDに達した群は、骨髄病変の広がり、軟骨損傷の広がり、全層軟骨欠損の割合が高かった

一方、半月板、靱帯・腱、滑膜炎、関節周囲の所見は、どのスコアとも有意な関連が認められませんでした。

論文はこの結果について、幹細胞治療は病変が進行した方に対しても何らかの有益な効果をもたらした可能性を示すデータだと述べています。

ただし「重症なほど効く」とは読めません

理由は3つあります。

1
対象が全員KL 3〜4である
もともとグレード0〜2の初期・軽度の方は含まれていません。あくまで「進行期から末期のなかでの比較」です。

2
論文自身が限界を明示している
考察では、本研究には患者満足度の評価が含まれていないと述べられています。治療前の痛みが強かった方は、スコアが改善しても痛みや症状が残ることで満足できない場合がある、という指摘です。

3
サンプルサイズが小さい
MRIの解析対象は19名・34膝にとどまります。論文の結論にも、治療効果を予測するにはより多くの患者さんとさまざまな種類のデータを用いた臨床研究が必要だと明記されています。

※ MOAKS:MRIをもとに膝関節の各構造を半定量的に評価する国際的なスコアで、膝を14の領域に分けて採点します。

※ 骨髄病変(BML):軟骨の下にある骨の内部に生じる変化です。MRIでのみ確認でき、X線画像には映りません。

わかったこと③|細胞数・培養期間・年齢との関連は認められなかった

本研究では、MRI以外の要因についても解析されています。

要因 効果との関連
患者さんの年齢 有意な関連は認められず
細胞の培養期間 有意な関連は認められず
注射した細胞数 有意な関連は認められず

注意が必要なのは、本研究が細胞量の違いを比較するために設計された試験ではなく、注射細胞数も無作為に割り付けられていない点です。

したがって「関連が認められなかった」ことは、「細胞数が治療後の変化にまったく影響しない」ことを意味しません。

わかったこと④|症状の変化と画像の変化は一致しなかった

本研究でもっとも注目すべき部分です。

57膝のうち、治療後6か月の時点でもMRIを受けたのは4名だけでした。人数は少ないものの、結果は参考になります。

症例 症状 MRI所見
患者1(74歳女性) 改善 骨髄病変を除き、明らかな変化なし
患者2(65歳男性) 一部のスコアが改善 骨髄病変を除き、明らかな変化なし
患者3(55歳男性) 改善せず 骨髄病変が減少し、内側半月板のサイズが増大
患者4(54歳男性) 改善 構造的な改善は認められず

この研究の4名の患者の結果から、膝の調子が良くなったと感じても、それに対応する変化がMRI画像上で目視により確認できるとは限らないことが示されました。

研究者は、痛みの軽減には膝関節内の炎症の減少が関わっている可能性があると考えています。論文では、複数の研究で治療後に痛みや症状の改善が報告されている一方、軟骨や半月板が再生したことを示す十分な証拠は、まだ得られていないと述べられています。膝が楽になったと感じることは、症状の改善を示しています。軟骨や半月板が修復されたかどうかを確認するには、さらなる検査や研究が必要です。

安全性について

6か月の観察期間中、重篤な有害事象や合併症は報告されていません。

研究期間中に報告された事象 件数
関節液貯留 6
痛み 5
局所の熱感 1
こわばり 1
感染 0

これらの反応はいずれも一過性で、すべての方が数日から1週間以内に完全に回復しました。

ただし研究の規模と観察期間には限りがあるため、この結果から長期的な安全性を判断することはできません。

本研究を行った医師について

当院院長の樋口淳也は、この論文の筆頭著者です。

東京大学整形外科で研鑽を積み、関節・脊椎・外傷・スポーツ医学の領域で外来と手術の経験を重ねるとともに、同大学大学院で間葉系幹細胞の研究に取り組み、医学博士号を取得しました。

本研究の内容は、同年の日本再生医療学会(2020年)でも発表されています。

この研究が示していること

1つ目は、変化には順番があるということ。痛みと症状が先に変わり、日常の動作やスポーツはあとから変わります。

2つ目は、症状の改善は軟骨の再生を意味しないということ。論文は、臨床的な変化が組織修復ではなく炎症の軽減によるものである可能性が高いと推測しています。「注射すれば元に戻る」という期待を持って治療を受けると、実際の結果との間に落差が生じかねません。

3つ目は、現時点では正確な予測ができないということ。治療前のMRI所見と治療後の変化には関連がありましたが、画像だけで個々の患者さんの効果を予測するには不十分です。論文自身の結論もそのとおりです。

この論文の価値は、治療成績を示すことではなく、「今わかっていないこと」をはっきり示した点にあります。

※ 本記事は医療情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。症状や経過には個人差があります。詳細は医師にご相談ください。

では、治療前の評価に意味はないのでしょうか

意味はあります。効果を予測するためではなく、次のことを確認するためです。

症状の原因が本当に変形性膝関節症なのか
関節の変性がどの段階にあり、手術を検討すべき状態に至っていないか
関節内注射に適さない事情がないか

膝の痛みは、必ずしも変形性膝関節症によるものとは限りません。関節リウマチ、化膿性関節炎、腰椎に由来する関連痛なども、膝の痛みとして現れることがあります。

当院では、症状の経過、診察所見、画像検査、既往歴をあわせて確認したうえで、再生医療が適しているかどうかを医師が個別に判断します。適さないと判断した場合には、その旨をお伝えします。

よくあるご質問

Q

幹細胞治療の前にMRIは必要ですか?

A

変形性膝関節症は通常、症状・診察所見・X線検査を組み合わせて評価するため、すべての方にMRIが必須というわけではありません。骨髄病変、半月板、靱帯といった関節内の構造を詳しく確認する必要がある場合や、他の疾患との鑑別が必要な場合に、医師がMRIを検討します。

Q

X線検査だけでは不十分でしょうか?

A

X線では関節の隙間、骨棘、骨の変形を確認できますが、軟骨の下にある骨の内部の変化(骨髄病変)は映りません。MRIが必要かどうかは、症状と診察所見をふまえて判断します。

Q

効果はいつ頃現れますか?

A

本研究では、VAS、KOOSの「痛み」「症状」のスコアの改善は、主に注射後の最初の1か月に見られました。この3項目では、1か月時点の平均改善量が、6か月時点の平均改善量の約70~80%に達していました。一方、日常生活動作や運動に関するスコアは、時間をかけて徐々に改善する傾向が見られました。改善の程度や時期には個人差があります。

Q

VASが6.1から3.5に下がったということは、自分も同じようになりますか?

A

これは34名・57膝の平均値であり、対象はKL 3〜4に限られています。改善幅には大きな個人差があります(VASの平均改善幅は2.6、標準偏差4.0)。すべての方に同じ変化が起こることを示すものではありません。

Q

病変が重いほど効果が高いのですか?

A

そのようには読めません。本研究では確かに、軟骨損傷や骨棘のスコアが高い群でMCIDに達した割合が高くなっていましたが、対象にはもともと初期・軽度の方が含まれていません。論文も、満足度の評価が含まれていないこと、サンプルサイズに限りがあることを指摘しています。

Q

細胞をたくさん注射すれば効果は高まりますか?

A

本研究では、注射細胞数と効果の間に有意な関連は認められませんでした。ただし本研究は細胞量の違いを比較する試験ではなく、細胞数も無作為に割り付けられていないため、細胞数に影響がないと結論づけることはできません。

Q

注射すれば軟骨は元に戻りますか?

A

本研究では、治療後6か月にMRIを受けた4名において、症状の変化と画像上の構造変化が一致しませんでした。論文は、臨床的な変化が組織修復ではなく炎症の軽減によるものである可能性が高いと推測しています。

ご自身の膝の状態を確認したい方へ

医師が患者に膝関節のMRI画像を説明する診察の様子 銀座YRクリニック
診察では、症状・診察所見・画像検査・既往歴をあわせて確認します(※イメージ写真)

銀座YRクリニックでは、症状、診察所見、画像検査、既往歴をあわせて確認したうえで、選択できる治療方針をご説明します。再生医療が適さないと判断した場合には、その旨を率直にお伝えします。

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ご相談・ご予約

完全予約制/自由診療

当院の診療について

診療医師

銀座YRクリニック 院長 樋口淳也

東京大学 医学博士/日本整形外科学会認定 整形外科専門医/日本再生医療学会認定医/日本スポーツ協会公認スポーツドクター

再生医療等提供計画 届出番号

自家脂肪由来幹細胞治療(関節症):PB3250224
自家多血小板血漿(PRP)療法(慢性関節炎):PB3250225
特定細胞加工物製造届出:FC3250098

その他の項目の届出番号は、各治療の詳細ページをご覧ください。

届出番号は、再生医療等安全性確保法にもとづく届出手続きが完了し、提供計画が受理されていることを示すものであり、国が治療の有効性や安全性を承認・保証するものではありません。

医療情報に関するご注意

本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、診断・効果・安全性を保証するものではありません。記事で紹介した研究は他の医療機関で実施された後ろ向き観察研究であり、症状の変化には個人差があります。

参考文献
  • Higuchi J, Yamagami R, Matsumoto T, Terao T, Inoue K, Tsuji S, Maenohara Y, Matsuzaki T, Chijimatsu R, Omata Y, Yano F, Tanaka S, Saito T. Associations of clinical outcomes and MRI findings in intra-articular administration of autologous adipose-derived stem cells for knee osteoarthritis. Regen Ther. 2020;14:332-340. https://doi.org/10.1016/j.reth.2020.04.003

最終更新日:2026年9月2日

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