
ASC療法は、「すべての症状を一度に解決する」万能の治療ではありません。しかし関節内の炎症環境を整え、残っている組織を守りながら、変性の進行を緩やかにする可能性がある補助療法として、科学的な研究が着実に進んでいます。
※ 効果の現れ方やタイミングには個人差があり、すべての方に同様の効果が現れるとは限りません。疾患の種類や進行度、体調などによって異なる場合があります。
前の記事「軟骨が自己修復できない3つの理由」では、軟骨が血管を持たないこと、軟骨細胞の修復能力の限界、そして炎症による悪循環という3つの理由から、軟骨がなぜ自己修復できないのかをお伝えしました。
では、現代医療はこの問題にどうアプローチしているのでしょうか。近年、世界的に注目されているのが「脂肪由来幹細胞(ASC)」を用いた再生医療です。手術のような大きな身体的負担もなく、一般的な投薬とも異なるこのアプローチが、なぜ関節に有効とされるのか。日本ではどのような位置づけで実施されているのかを、順を追って解説します。
ASCとは何か:「自分の脂肪」が持つ修復サポートの力
ASC(脂肪由来幹細胞)とは、皮下脂肪などの脂肪組織に含まれる幹細胞の一種です。「自分の体の脂肪から取り出した、さまざまな細胞に変化できる特殊な細胞」です。
お腹や太ももの少量の脂肪から採取でき、骨髄から取り出す方法と比べて体への負担が少ないのが特徴です。自分自身の細胞を使うため、拒絶反応のリスクも低いとされています。

関節に対してどう働くのか
ASCは「壊れた軟骨を直接作り直す」というよりも、関節の内側の環境をよい状態に整えることで働きかけると考えられています。研究で示されている主な作用は以下の4つです。
炎症を鎮める
炎症を引き起こす物質の産生を抑え、関節内の炎症を穏やかにします。
免疫を調整する
免疫の働きを調整して、軟骨がさらに壊れるのを防ぎます。
軟骨細胞をサポート
残っている軟骨細胞の生存と機能をサポートします。
関節環境を改善
関節全体の環境を改善し、変性の進行を緩やかにする可能性があります。
大切なのは、ASCは「これ以上の破壊を抑え、残っている組織を守りながら、関節環境の改善を通じて変性の進行を緩やかにすることを目指す」補助療法として位置づけられている点です。だからこそ、変性が進む前の早い段階での介入が重要になります。

日本での法的位置づけ
日本ではASC療法は医薬品として正式承認されていません。しかし「再生医療等安全性確保法(ASRM法)」という法律のもとで、一定の条件を満たした医療機関が安全に提供できる仕組みが整備されています。
細胞を培養・増幅して使うカテゴリーで、提供計画書の提出と専門機関による審査が必要です。2021年時点で935件を超える実施計画が認められており、法律と行政の管理下で科学的検証が着実に進んでいます。
※ Ginza YR Clinicは、第二種再生医療の提供計画に基づき、法律に定められた審査・管理体制のもとで治療を提供しています。
実際どれくらい効果があるのか:臨床データの現状
改善報告値
(投与後6ヶ月〜1年)
承認数
(2021年時点)
での改善例の割合
(一部報告)
変形性膝関節症(膝OA):最もデータが蓄積されている領域
ASC療法の臨床研究で最も多くのデータが集まっているのが、膝の変形性関節症です。片膝に約5千万個のASCを投与する方法が標準的なプロトコルのひとつとされており、投与後6ヶ月〜1年で痛みの強さを示すスコア(VAS)が50〜60%程度改善したという報告が複数の小規模試験で示されています。日常動作のしやすさを測るスコア(WOMAC)でも同様の改善傾向が確認されています。
その他の疾患への応用
膝の変形性関節症以外にも、アルツハイマー型認知症(認知機能スコアの改善報告)、ALS・パーキンソン病(症状の安定・改善例:54〜89%)、脊髄損傷、COPD(慢性閉塞性肺疾患)、骨粗鬆症などが臨床研究の対象となっています。足部の潰瘍治療では約80%の治癒維持という報告もあります。
現時点での限界:正直に知っておくべきこと
ASC療法への期待は高まっていますが、現時点での限界についても正確に理解しておくことが大切です。
- 大規模なランダム化比較試験(RCT)がまだ不足しており、プラセボとの比較データは限定的
- 治療の主な効果は「痛みの軽減」と「炎症の抑制」および「関節環境の改善」
- 効果の持続期間は概ね1〜数年。患者の年齢・変性の進行具合・細胞品質によって差がある
- 重症例では進行を緩やかにすることが主な効果にとどまるケースもある
※ ADSC療法は再生医療等安全性確保法に基づく医療行為であり、効果には個人差があります。本記事は一般的な医学情報の提供を目的としており、特定の治療効果を保証するものではありません。治療をご検討の際は、専門医にご相談ください。
どんな方に向いているか:早ければ早いほど、選択肢は広がる
ASC療法は軟骨変性の初期〜中期段階において最も効果が期待しやすいとされています。生活習慣の改善・理学療法・体重管理などと組み合わせた「関節を総合的に守る戦略」の一環として活用されることが理想的です。
「まだそれほど痛くない」と感じる段階から、専門医に関節の状態を評価してもらうことが、長期的な関節の健康を守る最も賢い選択のひとつです。
まとめ:再生医療を「選択肢のひとつ」として正しく知る
- ASCは自分の脂肪から採取する、体への負担が少ない幹細胞
- 関節内の炎症を抑え、変性の進行を緩やかにすることを目指す補助療法
- 日本では再生医療等安全性確保法の枠組みで、法的・医学的管理のもとに実施
- 早期段階での介入が、より多くの可能性を残す
※ 本記事は医療情報の提供を目的としたものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。治療の経過・変化には個人差があります。詳細は医師にご相談ください。
Ginza YR Clinicでは

全身ケアおよび膝関節を対象とした脂肪由来幹細胞(ASC)治療を提供しています。
再生医療をメインに、関節ケア・アンチエイジング・美容医療を組み合わせた銀座のクリニックです。お一人おひとりの状態をもとに、専門医が総合的に評価・判断し、長期的な健康と生活の質を支える治療をご提案しています。
「Ageing Well」という理念のもと、老いに抗うのではなく、自分らしく健やかに年齢を重ねていく。細胞レベルから身体を整え、長期的な健康と生活の質を支えることが、銀座YRクリニックの出発点です。
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参考文献
- Pak J, et al. Adipose-derived stem cells and their secretome for knee osteoarthritis treatment. J Clin Med. 2018;7(12):572.
- Fodor PB, Paulseth SG. Adipose derived stromal cell (ADSC) injections for pain management of osteoarthritis in the human knee joint. Aesthetic Surgery Journal. 2016;36(2):229-236.
- 東北大学病院 先進医療・再生医療センター. 変形性膝関節症に対するADSC供給プロジェクト. trmc.hosp.tohoku.ac.jp(参照:2026年)
- 厚生労働省 jRCT(Japan Registry of Clinical Trials). ADSC関連医師主導治験一覧. jrct.mhlw.go.jp(参照:2026年)
- 小仁会グループ. 第二種再生医療提供計画の実施状況(2021年時点). kojinkai.or.jp(参照:2026年)
- 一般財団法人 日本医療機能評価機構(JFMC). 再生医療の安全性・有効性評価ガイドライン. jfmc.or.jp(参照:2026年)
- PR TIMES. 国内クリニックにおけるADSC療法の臨床成績報告(2024年). prtimes.jp(参照:2026年)
- J-ARM(日本再生医療学会誌). 脂肪由来幹細胞の臨床応用に関する最新動向. j-arm.com(参照:2026年)

